・・専門家賛美・・









 CDコンポが壊れた。
一年前に買ったやつだが、CDを入れても空回りするばかりで再生しないのだ。
 俺はコンセントを引き抜くとコンポと、玄関先の傘立てに入っている金属バッドを持って外へ出た。あたりはもうすっかり暗く、住宅街では明かりは街灯くらいしかない。
 人っ子一人いない公園へやって来てコンポを投げた。
鈍い音がしても、まだどうにもならないのでバッドを持ってきてぶち殴った。隣の家の白い壁に、音が跳ね返ってこだました。
 三度ほどですっかりぐしゃぐしゃになる。
おまけにもう一度バッドを振り下ろしてから、俺はくるりとそれに背を向けた。
 CDプレイヤーは音楽を再生するのが仕事である。
もう二度と音楽が鳴らせないのなら死んでしまえ。
代わりはいくらでも並んでいる。
 俺はすぐに静かになった公園を後にした。
いい汗かいた、と思った。



 家についてすることも無いのでビデオを回した。
そろそろ飽きてきたのだろう。ちっとも勃たない。
俺はビデオを取り出して、不燃ごみの箱に投げ捨てると、財布を持って立ち上がった。
 いつものレンタルビデオ屋は少し遠いのだが、内容が充実しているので文句は言わない。そういう仕事をする人間だけが、この厳しい世の中で生き残っていくことができるのだから。
 居並ぶ派手なパッケージの列の、どこを探せば好みのものがあるかよく知っている。男はこういう探し物のプロでなくてはならない。
 「秘密の花園 エッチな看護婦さんがシテくれる、秘密の治療はいかがですか?」
…これは前に借りた。明るくて俺の好みじゃない。
「お注射タイム 白衣の堕天使・白鳥裕香」
新しいな。…ち、こんな女じゃ勃たねえよ。
 おっ……。
「誰か助けて! 強姦ナース 深夜のナースコール」
どんぴしゃだ。
 すぐにレジに持っていった。俺はそんなに多情じゃないから、一度には一本で十分だ。毎日来れる距離だしな。
 大丈夫だ。
家に帰って思う存分ヤりながら、俺はうめくように呟き続ける。
 大丈夫だ。
 大丈夫だ。
 大丈夫だ。
自分の呼吸が荒いのを、どこか遠くの俺が嬉しがっている。
 大丈夫だ。
 大丈夫だ。
 大丈夫だ。
俺はまだ、勃つ。
俺はまだ、勃たせられる。
日々、その刺激に強烈さを求めるようにはなっているけれども。
 全ての刺激が俺を欲情させなくなる日が来たら、そんな日が来たら――――――――多分俺も、死ぬんだろうな。




 朝のニュースで、巨人のとある投手が肩を壊して二軍に落ちたと言っていた。
 俺は足でテレビの電源を切りながら思った。
投げられないなら死んじまえ。
お前や俺の代わりはこの世界に、幾らでも、
幾らでもいるんだ。











---EOF-









01.07.12
to be continued


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