・・鵜呑みの覚醒・・







おい俺の体よう
一体いつまでげほげほ咳き込んで
一体いつまでぐらぐら公転するつもりだい
明日 明後日にはもうお仕事が始まってしまうんだ
これ以上人様に迷惑をかけるわけにはいかないんだよ
回復しておしまいな
咽喉の奥のほうに縮こまってよう 
何に楯突いてそう長引いているんだい



どうしたい
まさか回復したくないのかい?
一生とは云わずともしばらくこのまま
一生とは云わずとも不調なままにいるつもりかい
だって回復してどうするの
またぞろ仕事に向かうだけ
午前八時の電車に乗って午後七時の電車に乗って
いずれにしても黄昏て草臥れきって絞られて
土日を神さまからの贈り物みたいにしておかしいじゃないか



社会に出て行くなんて嘘っぱちだ
狭いコンクリートの中に押し込められて日永一日
外で何が起こっていようがわかりゃしない
いい年した連中どもが額突合せ
腰をかがめて話す事といったらなんだい
路線と テロと セックスと機械の話ばかりだよ
有名人と知り合いだとか 本物の料理を食べただとか
新しい機種の話なんざ 回復してまで聞く話かい



それでごねてるのかい俺の体
今日図書館に行く道すがら ずっとそんなことを考えていたね
ここんところ宝石にぶつかっていないからだよ
いやさこれから先にも宝石なんかないのじゃないか?
目をくらまされていたね
何かあると信じていただろう?
真面目な子供だったからさ
かわいそうに親教師の言うことを鵜呑みにして
グガッ この道を辿ればいつかきっと
グガッ 光り輝く何かに到達できます
ところがどっこい ゲゲッ 
飲んだその餌 吐き出さねばならんのです



ちくしょう詐欺師め
何にも無いんだここには
何も無いぞだってここには
無視と慇懃と算盤が牽制し合って描く
空虚なアーチがあるばかり
お蔭様で月何十万と金稼いで
なんとなく着たい服着て
なんとなく食いたいもの食って
なんとなく親孝行してゲーム買って
わかったよ
もうわかった
ここには何も無い
無論 故郷にも何も無かった



ああ
この世界に遠慮することなど何もありはしないんだね
自分自身を慮ることも何もないんだ
俺は今日も下水道を流れゆく
汚くて汗だくで愚痴っぽいただのニンゲンに過ぎないんだから
その流れに沿ったり意のままになろうなどと
努力すれば尚更に滑稽だ
俺がどうなろうと世界の知ったことか
だから世界がどうであろうが俺の知ったことじゃない
お手軽に楽しくかわいく行けよ
俺は別の処へ行くってだけの話だよ
その結果 厭われようが
もう勝手にしておくれない
それこそ俺の知ったことじゃないんだ



「大丈夫だ まだ不慣れだっただけ
 もう二度とお前は下らない常識などに
 体を乗っ取られたりしないよ」




その瞬間突然俺の両足は力を取り戻し
人々を後ろに住宅地を闊歩した
どこからか湧き上がる押さえがたい不気味な笑みを
密かに咽喉元から逃しながら
俺は確かに楽になったが
多分これでまた 気違いに一歩近づいたんだろうと思う










---EOF-









02.01.13
to be continued


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