この拍手が聞こえるか






Mよう。
いきなりの雲が運んできたこの地震わす拍手が聞こえるかい。
これは君へのご褒美だよ。
今ふるさとでがんじがらめの目に遭ってもがんばっている、
君への「遅ればせながら」なんだ。







君がふるさとに帰った頃、僕もちょっと参っていた。
次のステップが見えなくなって、どうにも続けていく気力が
湧いてこなくなったんだ。
やめちゃおうかな。
けれども床に寝転がって目を閉じると、
両親のなだめるような眼差しや、
親戚の褒め言葉や、
祖父祖母の誇らしげな電話が。







元気付けられたなんて思わないでくれ。
僕はますますへこんだよ。
僕には途中退場の権利すらないんだ、あの人たちは
僕が世間で言われている立場にいなくなったら僕を捨てるだろう。
しがらみなんだ。
四畳半アパートに決して僕を住まわせない、
目に見えない刑法なんだ。







僕等は共に膨張する自我と親の言葉との間で思い悩む種類の人間だ。
世の中にはそんなことが何の問題にもならない自由な人たちもいる。
けれども僕は自棄になって就職の酒を食らった。
君は自棄になって、一月に色んな男をとっかえた。
そうやってしまう人間達なんだ。
親に逆らって悲しませるなんてサイテーだと思っている。
いかに口では激論を飛ばしたところで。






君に電話してこれこれこういう決断でこれから親を裏切るのだけれど、
「どうか君だけは僕の事を嫌いにならないでくれ」
と頼んだことがあったっけ。
だから僕も今、君の決断を受け入れるよ。
遠く離れて中々会えなくなってしまうかもしれないが、
(或いは意外とそうでもないかもしれないが)
生きていればそれでいいんだ。





僕等はまた今までどおり闘って行こう。
自由ばかりを追い求めて甘く怠惰な人間達とも闘って行こう。
そうすれば目の前に、右でも左でもない僕らの地平が、
限りなく自由な地平が見えてくるさ。
けれどもその前に拍手だ。
万雷の拍手だ。





五万の雨粒が地を叩くこの拍手が聞こえるかい。
僕は君を思って身震いをしたよ。
これは君へのご褒美なんだ。
今ふるさとでがんじがらめの目に遭ってもがんばっている、
君への「今更ですが改めて」なんだ。












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01.07.22