コントラコスモス -1-
ContraCosmos




 まず街の話をしておこう。
暗いのは気にしない。まだ太陽が出てないんだから仕方が無い。足元に注意して歩きながら、想像力を働かせて話をしよう。
 まずは透明の箱を一つ用意する。透明だから枠は見えない。だがその箱の中は暗い、ちょうど今のような闇で満たされている。
 準備がよければその中心に恒星を用意しよう。轟々たるデウスの炎でも、そこらの石のような冷たい球体でも構わない。とりあえず無為な空間に、ヘソが認識できればそれでよい。
 次に衛星を用意しよう。こいつは恒星の周りを回るのだから、それより小さくなくてはならない。砂粒くらいが適当だろう。位置はある程度、中心から離さねばならない。かといって遠すぎるのも問題だ。引力の駆け引きが絶妙な場所に無ければ、衛星は落ちるか飛ぶかしてしまう。
 無事に設置できたかな?
では、そいつをぐるりと一周させてみよう。軌道は完全な円形よりもやや歪な、楕円の方が正しい。
 これでほとんど完成である。最後に鉛筆を一本取り出し、衛星の楕円の軌道の頂点と頂点とを、線で結ぶ。きれいな楕円なら上手に中心を貫通すると思うのだが、だめなら強引に恒星に接触させてもらいたい。



 ――これが私の街である。
外壁は緩やかな楕円形をなし、中心には大聖堂。豊かな川が斜めに横切り、街を上下に分けている。私の今いる位置は下のほう。ちょうど大聖堂と外壁の真ん中辺りに広がる、住商混合の雑多な地区だが、夜開く街ではないため、辺りは静寂そのものだ。
 二の次になったが、私の名前はミノスという。この辺りでしけた薬草屋をやっている。それがなんでこんな早朝、灯りも持たず一人で歩き回っているかというと、実に簡単な話で人目を避けているのである。
 人目を避けて向かうは南西の墓地。何をしにいくかは、友情の誕生とは関係の無い話なのでまあとりあえずおいておこうじゃないか。
 私のような生業の者に必要なのは、季節ごとの日の出日の入り時刻を記した精確な暦と、人気のない小道を選べる地の利と、足音を立てない用心深さである。あまり健康的な話ではないが、死に絶えた夜の街を散歩するのが好きな人間には苦でもない。
 暖まる前の空気を誰よりも早く肺に入れながら、歩くこと18分。緩やかな坂道を登って西の城壁に着いた。城壁と言っても中世のものであるから、もうボロでおまけに低く、雑草とガキどもの生息地になっている。
 この街が外敵(放浪する外部民族)に怯えていたのは遥か昔のことだ。大道においては夜間の規制がされているが、調べればこのような穴場はいくらでもある。乗り越えて、きつくなる坂へ向かった。
 私は概ね健康体だが、少しバランスを崩すと不整脈になる癖がある。さすがに早朝散歩も坂となると体が驚くらしく、肋骨の中で何度か脈が飛んだ。いつものことなので気にせず、青く変色し始めた空を仰いだ。
少し遅れているようだ。
急ごう。



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