コントラコスモス -4-
ContraCosmos


 状況が悪くなりました。簡潔に書きますが、お約束の日時に商品を取りに伺うことが出来ません。
 申し訳ないのですが、下記の住所に下記の名義で夜七時ごろお届けください。必ずこの通りに仰ってください。私の生命に関わります。

住所:アールベジャン通り東21-4
玄関で「リムス化粧品店の使いです。奥様にいつもの香水をお届けに参りました。」と仰ってください。
ほかの事は何を聞かれても分からないとお答えください。

 料金は後から如何様にもお支払いします。とにかく私の状況をご考慮の上、品物をお届けください。一生恩に着ます。





「……あらあら」
 折角毒物の作成はうまくいったというのに、どうも依頼主の状況の方がうまくないようだ。朝一で、妙に血走った目の使用人から届けられた手紙は走り書き。しかも手が震えていたと見えて、ところどころ書き損じがあった。
 ありていに言って、何か亭主にバレたに違いない。毒物は届けろと言っているから注文のことではなく、多分愛人の存在か、逢引の証拠か、まあそんなところだろう。
 よくあることだが、ことこういう方面については人間三度三度逆上する。毒は造った以上届けるが、単独でこの家へ行くのは危険だ。あの奥さんがどういう状況にあるのか想像の範囲でしかないし、実際は大したことないのかもしれないが、この商売は用心が信条である。
「マヒトか――」
 荒事に向いた人間の顔を思い浮かべたが、あいつは『亭主を毒殺しようとする女のところに毒を届けるからついて来い』と言ってもついては来ないだろう。とはいっても別に雇うのもバカらしいので、理由の方を曲げることにする。
 ブツブツと奴を納得させる作り話を考えながら店のほうへ出て行くと、さっきドアを開けたばかりなのにもう来客があった。




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