キナリで花を売る娘から菫を買った。
菫は悪くない。
グラスに半分水を浸して突っ込む。
茎から立ち上る丸い泡を見ていれば嬉しい。
今夜は酒もいらないかもれない。
灯りも消えた店の中、一人で、にまにま笑いながら死んだふりしてカウンターに突っ伏していると、つまらない連中の気配が流れてきた。
消してるつもりの足音が三人。いや一人のろまがいた、四人だ。
暗闇の中で、リップの青い目が薄く光った。
「んー……。やれやれ」
格子のはまった窓にばらばらっと影が躍る。
足の長いそれは、彼の丸まった背中さえ飛び越して菫の上へも掛かった。
「こういう勘が当たるってのは、全く嫌だねえ……」
言いながら惰弱な犬のように彼が顔を上げたのと、ドアの錠が注意深く(少なくともそのつもりで)破壊され、開いた四角にごちゃごちゃした影法師がひとかたまりで現れたのはまったく同時だった。
「いらっしゃい――、法衣を被った女衒ども」
まさか灯り一つない店内に人間がいようとは思わなかったのだろう。山のような影が動揺したかと思うと、左の一角がぼろりと崩れた。
勿論、一番足がのろくて臆病だった奴が逃げ出したのである。
「あッ! 待ッ―――」
それに気をとられた男の叫びは途中で切れて、その後は真っ当な声にならなかった。
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