目を閉じれば瞼の裏にその記憶は張り付いている。
よく覚えているのは好きだからなのか、とても嫌いだからなのか。
或いは単に人類最初の男だったからなのか。
今では矮小な男だったと分かる。
それを知りえなかった自分がガキだったのだと分かる。
翻った瞬間も覚えている。
□□□が慣れたことを知ると男はやたら□□□の反応を気にし始めた。
いいか? いいか? としつこく聞いた。
最低だ。全く下種だ――――――
だが□□□はそれを不快に思うよりも先に、
気の毒に、と思った。
だから答えてやった。
男が悦びそうな答えを。
図に乗った。
嬉しそうだった。
自分がそうしたにも関わらず、□□□はやっぱり男が哀れだと思った。
その瞬間、関係は静かに逆転したのだ。
その直感は□□□のもので、男のものではなかったが。
男がそれを知らなかったという時点ですでに、ひっくり返った砂時計だ。
砂は□□□の方へ流れ始めた。元には戻らなかった。
男ならそう思ったろうが、□□□は男の上を取っていても、ふふん馬鹿が。とは思わなかった。
ただひたすらに哀れだった。
男は□□□が自分の支配を離れないのは自分に魅力があるせいだと思っていた。男は行為するためだけに彼女に会っていたのだから、勘違いは自然、自分の能力への誤解となった。
彼は□□□を翻弄しているつもりで自分が翻弄されていた。気の毒だった。全く可哀想だった。
別に行為などしなくても、
どこまで馬鹿でも
卑小でも、
□□□は男を許したろうに。







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