コントラコスモス -11-
ContraCosmos



 やっとのことで夜が明ける。
常連客が店にそれぞれやって来て、既知の事実をニュースとして話していった。
 昨夜、聖庁内で拘束中であった神父ヒルデベルトが突然死した。原因は不明。故ナタリア枢機卿の犯罪行為に対する捜査は中断を余儀なくされる。
 誰が殺したのか、何故殺したのか、或いはただの事故や自殺なのか、陰謀なのか個人的犯罪なのか等々、彼らは真剣な顔でその実無邪気に噂しあっていた。
 私はカウンターの後ろで薬草を潰しながら新しい錠前のことを考える。何も知らない振りをして会話に混ざるのは手間だったから、今日の私は無口だった。
 そして手もなく孤立していた。
 ポワントスは私に冷たく水っぽい陰をなすりつけていった。いや、思い出させていったというのが正解かもしれない。
 本来なら、私はこうやって人々と距離を置きながら、自ら知っている部分を闇に浸して、平然とした顔をしていなければならない。
 毒物師は、生きている限り、行為が起こる先から殺人が為されることを知る立場にある。起きた後になって不確かな情報のみ渡される人々とは異なる世界が生まれて当然だ。
 ポワントスは私を変り種とはいえ、飽く迄権力に関わる毒物師として扱った。故に明るいうちに行動する私の薬草屋としての部分を阻害していったわけだ。
 他人を侵食する力の強い陰。毒物師としてはこれ以上ないほど正しいが、後から思えば思い返すほど強引だ。やはり彼はイラついていたか、怒っていたのではないだろうか。
 まあそれも当然かもしれない。
どちらの父か確かなことは分からないが、ポワントスの世話をしたというなら多分あっちだろう。
 その娘がこんなところで、一般人相手にぐたぐたハーブや安っぽい毒物など混ぜているというのは、人によっては言語道断を通り越して冗談に近い。
 まあそういう感情を抜きにすれば結局ポワントスは、どちらに着くか態度を決め、毒物供与の代わりに然るべき保護を受けるようにと言いたかったのだろう。
 事態はそれほど甘くない。もしどちらにも着かぬというのであれば、長生きは望めないぞと。
 ――このままで済むはずがない。
それは分かっていた。
 だが正直言って半分くらい忘れていた。奴はそれを父への義理から、ご丁寧に警告していってくれたわけだ。
 ご親切は身に染み入るほど有り難いが、おかげで私はその後一週間ばかり、夜も昼間もローだった。




-了-


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