迷惑したのは私である。
林檎とマヒトは大混乱で店に戻ってきた。薬草の籠は一つ紛失してるし、リップは突然現れた訳のわからない男に連れ去られたというし、二人共興奮してまともな情報が得られない。ほとんど猫の紛れ込んだ鶏小屋だった。
とにかく近衛兵に追われていた男に人質として連れ去られた。というのは事実のようだ。
マヒトにぎゃあぎゃあ言われてコーノスに事情を話しに行くことには同意したが、そう約束するまでもなく夕方頃、コーノスから深夜出頭するようにと手紙が届けられる。
「ちゃんと聖庁が動いてるってことだ。じきに犯人を捕まえて、リップを解放するさ。お前らは疲労してる。一旦帰れ」
私の言葉にほんの五分前、スツールに座ったマヒトは膝頭をつかんで首を振った。
「少なくともお前が帰ってくるまでここにいる。あいつを連れて行ったのは、昨日、貴族殺しをやった男なんだぞ。部屋に帰ってぐっすり眠れるような気分じゃない」
「貴族殺しの犯人? 近衛兵がそう言ったのか?」
頷くのを見て私も諦めた。殺人犯に連れ去られたのでは安否が気になって当然だろうし、こうと決意したマヒトの巨体を店の外へ押し出す元気もない。
「しょうがないな……」
ただ、聖庁での一件のときのように勝手に動かれてはたまらないので一服盛った。
お茶を飲んだマヒトと林檎がめいめいカウンターに突っ伏して寝息を立て始めた頃、私はようやく悪態をつける状態になる。
「何をやってるんだ、全くお前は……!」
表を閉めると、いつもリップがだらだらと腰掛けているスツールを見つめ、腕を組んだ。
「おかげで薬草が足りんじゃないか……」
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