コントラコスモス -17-
ContraCosmos



  大図書館には薔薇窓があった。
 王都の中でもっとも大きく、かつ最も大規模な連続した薔薇窓だった。
 なぜかと言えばもとは大聖堂だった建物を没収して書館にしてしまったためで、かつて僧侶達が俯いて行き来したところを、今じゃ官吏のたまご達が極彩色のグラスをバックにウロウロしているという次第だ。
 窓際には四人がけの机が二十並んでまだ間があった。そんな馬鹿でかい部屋だったためか、かえって皆、いつも座る席というのは決まっていた。
 私の席は南から三番目だった。
朝、まだ誰もいないうちにやってきてそこへ座り、しばらく勉強をしていると、大抵三十分以内に向いに腰をおろす学徒がいる。
 私たちは挨拶を交わし、話題があれば少々話し込むこともあった。それも他の学徒が来れば迷惑になるのでそこまでのことだったが、それまでの二十分、三十分は互いに、指は動いていても勉強になっていなかった。
 夕方はその逆になる。私がその席に行くといつも彼は先に来ていて蝋燭の灯りの下、法令を暗記していた。
 そして学徒の姿が一人減り二人減り、やがて消灯間際には私と彼の二人だけになっている。
「そろそろ切り上げようか」
 きっかり十分前に声が言う。
 立ち上がった私たちはすっかり色をなくした薔薇窓の前を通り、出口まで何か話す。つまらないことを。
 それはただ理由も無く繰り返されるだけの習慣だった。私はそれをするうちに彼の手の形を覚え、彼の話し方の癖や、褒められて恐縮した時の表情などを覚えた。
 あまり繰り返したためだろう。
そこから離れて以後も、時折薔薇窓の前に立つ、彼の夢を見た。





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