コントラコスモス -18-
ContraCosmos




十九歳。
汚いものはそれ以前からあったけれど、
本当に汚いものは自らの中から滲み出してくるものだと知る。








「――もう一度! 胃液だけになるまで続けるぞ!
 そこの! 突っ立ってないで後ろに回って体を固定しろ!」







快楽を得るための最短距離を測る自分を知る。
声色を変えて男に懇願する術を知る。
他人を利用するという行為の本質に
ぼんやりと触れる。







「口の開け方も知らんのか?!」
「だ、だって噛まれますよ……!」
「――いい、替われ!」







自分がどういう性を持ちどういう業の中で生きていくのか知らされる。







「マヒト神父をお連れしましたが……!」
「おい、一体なんの騒ぎなんだ、これは?! 俺は明日朝一で解剖が入っ……」
「つべこべ言ってないで早く手伝え!」
「お前――?! なんでこんな夜中に聖庁にいるんだ?! 体調悪いんじゃなかったのか?!」
「誰がそんなことを言った!」
「絵――ッ?!」







お前は生まれながら、人を助けるために生きる人間ではない。人を殺すために生きる人間だ。そのための存在だ。つまらない夢は捨ててしまえ。






「な、なんだ、これは王都の役人じゃないか?! 一体何が起きてるんだ?!」






自分というちっぽけな人間には自らの感情も、快楽も、運命も、勿論他人のそれらも、何一つ制御できないことを知る。






「王都の外交官だ。内輪揉めで毒を盛られた」
「何だって? それを何で俺等が助けなけりゃならんのだ?! 王都の連中はどこへ行った? 犯人は捕まえたのか!」






そのために剣や毒や媚というものが考え出されたということを知どうしてもそれを忘れられないというのなら






「事情があるのだ、マヒト君。彼らにはこの場面を見せたくない」
「説明になってないぞ! 連中が自前で医者を呼ぶなり何なりしたらいいじゃないか! 聖庁の人間ですらないのに、どうしてわざわざ体調の優れないミノスが出張ってこんなところで……!」






俺があいつを殺してやる。







「あんたがミノスを呼んだのか?! こいつが一昨日から寝込んでたのを知ら…」
「やかましい――ッ!!!」
 私は手にしていた濡れ布を床に叩きつけた。重いもので、思いの外派手な音がする。自分自身ですら、飛び上がりそうになった。
「喚いている暇があったら脈のチェックでもしたらどうなんだ!! それでも医学僧か! 現場に至ってつべこべ抜かすな!!」
 色をなくしたマヒトの顔に理不尽の三字が張り付いている。何で自分が怒鳴られなくちゃならんのか、分からんのである。
「な、なんだよ俺はただ……。それに、何でこんなことになっているのか説明をしてくれなければ動けないだろうが……」
「何を考えることがあるんだ?! 目の前で人間が死にかけているんだぞ! 誰かが助けなければ確実に死ぬんだ!!」




俺があいつを殺





「ならば助けなければならないのは当然だろう!! こいつは絶対に助からなければならないんだ!! 絶対にこんなところで死なせてはならない――!! そうだろう?!!」
 最後の一語は辛うじてコーノスに叩きつけた。
 壁際で痩せ男が私の顔を見る。頬の辺りにリップの視線を感じる。マヒトの丸い瞳。
 張られた線の中で私は一瞬突き放されたように感じた。
 なんだろう。
私の顔に何かついているのだろうか。
 静寂の後、肩をすくめてコーノスは言う。
「その通りだ」
と。




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