コントラコスモス -18-
ContraCosmos



 うたた寝から目を覚ました時にはしまった。と思った。
だが再び彼の手をとればすぐ安心出来た。
 体温は正常。脈は落ち着いており、寝息もすっかり安らかになっている。
 完全に危機を脱していた。
 ――よかった……。
 私は天井を仰いでふーっとため息をつく。ついたそばから力が抜けて、体がくらくらと揺らいでしまう。
 後は、本人の目が覚めるのを待つだけだ。この調子なら恐らく昼までに意識が戻るだろう。
 私は血色の戻ってきたその顔を眺め、不安の影がどこにも残っていないことを確認すると、椅子から立ち上がった。
 だるい手足を誤魔化しつつ、散らかり放題の器具を片付け始めると、部屋の隅で休んでいたマヒトが、物音に気を使いつつ近寄ってきた。
「撤収か?」
「ああ。後はもう私でなくても大丈夫だ。引き上げる。
 ……リップは?」
「呼んでくるよ。外にいるはずだ」
 彼はすぐに、辺りをうろうろしていたリップを連れて戻ってきた。彼は私が適当に納めた籠をひょいひょいと腕に持つと、
「お前はいいよ。朝一で解剖とか言ってなかったか」
と、やはり荷物を持とうとするマヒトを止める。
 そう言えばそんなことを言っていたような気もする。私も包みを抱えながら、彼に遠慮しないようにと言った。
「いや、店まで行くよ」
「だって今、何時だ」
「四時過ぎだけど――、いいよ。部屋を出たときに仲間が見てたから、察してくれるだろ」
 なんとなく頑な口調で、彼は残りの籠をさっさと引き寄せた。体力不足もあって私もリップも強いて止めなかったが――、思えばそれがよくなかったのかもしれない。
 コーノスの執務室で彼に今後の指示をして、それから通路へ出たが、それがまた縮み上がるような寒さだった。
 長時間室内にいてすっかりだらけきっていた我々は、背中を丸めて妙な急ぎ足になりながら、もう明け始めている街をそそくさと店まで帰った。





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