コントラコスモス -20-
ContraCosmos




 私が一四歳になった時、孤児院に一枚の紙切れが送られてきた。その命令によって深夜王宮に行くと、血色の悪い、見知らぬ文官が一人、私の前に現れて言った。
 私の父は王のために毒物を作りまたその解毒に責任を負う高名な毒物師であり、その娘として生まれた私は彼の研究資産に手をつける権利がある唯一の人間であってまたそれが私の使命であると。
 全体何のことかと思っている私に、彼は言うより早いと思ったのだろう、閉ざされた部屋の扉を開け放して手をひらめかして見せた。
 埃と闇と禍々しい知識に満ち溢れたその部屋は、冷たい空気で私の前に実在していた。危険なだけでなく、孤独や孤立や狂気といった魂が避けたがる忌まわしいものどもの兆しが、部屋の随所にこびりついていた。
 文官は怯える私の手を引いて、中に一緒に入ると、今思えば少し気遣いのある眼差しで、石畳の上の私が落ち着くまで間をおいた。
 ようやく私が、「話はわかった。それで今日はもう帰っていいの?」という表情になると、彼は後ろ手を組み、やや前かがみになってこの痩せっぽちな孤児を見つめた。
 質問はないかね。これ以後君に一切質問は許されないだろう。聞きたいことがあれば、今のうちに聞いておきたまえ。分かる範囲でそれに答えよう。
 また時間が必要だった。私はまだほんの子供で、世のしきたりも物語の大筋も飲み込めていなかった。
 つっかえるままに二、三の質問をし、既に全ての手筈は整っていて自分に選択権はないことをぼんやりと理解した。しばらく沈黙した後、私は彼に聞いた。
 父はどこにいるのですか?
 文官は顎を引き、私の顔を見ないようにしながら答えた。
五年前から行方不明なのだ。どこかにいらっしゃるのだろうが、少なくとも私は把握していない。
 そうなのか。と飲み込む他なかった。行方不明という語が、明瞭に行方をくらましているという意味なのか、死体が見つからないときの言い回しなのか、判断は出来なかった。彼もそうなのだろう。
 仕方もないし、間ももたないので、私は聞いてもどうしようもないことを聞いた。
 父は、なんという名前なのですか。
 ―― ヤライだ、
文官は言った。
 ヨルキタルという程度の意だ。







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