コントラコスモス -27-
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リップの行動は早かった。 早すぎた。 だが花屋だって早かった。 私は頭を抱えた。 自立型の人間が互いにせかせかと動いて お話し合いにもなっていない。 マヒトがいれば。 あの単細胞がここにいれば。 その日の昼下がり。夕方に届く一歩手前。時間の流れが緩んで自分が生きているのが不確かになる時刻。花屋は表を店子に任せ、気分が優れないと言って自室で寝台に横になっていた。 ドアが開いて、背中に男の足音が近づいてくる。話があるのだろうと彼女は察した。この男が気配を現しているときは大抵そうだ。彼のほうも、自分が寝ていないことは知っているのだろう。 男の体重で寝台が軋む。縦と横の背中が一瞬触れ合い、再び掌一枚分ほど離れる。花屋は目を開かぬまま、相手が始めるのを待った。 「潮時だと思うんだよね」 二分の一で予想はしていた。それでも空気から色々な光が抜けてしん、となった。リップの声だけが変わらない優しさと冷静さで続く。 「散々世話になっといてあれだけど、そろそろ元いた場所へ戻るよ。君も、あんまりいつまでもこんな変な犬と関わってないほうがいいでしょ。取り返しのつかないところまで行っちゃったらやばいしね」 リップはその後に二、三必要ないことを言って調子を整えると、来たときと同じように静かに寝台を立った。 「今までどうもありがとう」 離れていたはずなのに、それでもうずくまっていた温かみが渦を巻いて消えて行く。花屋は目を開かなかった。 気配が遠のいてドアの先へ消える。 十分ほども流れた後、右手が持ち上がって瞼を押さえた。 |