コントラコスモス -30-
ContraCosmos


 花屋は組合の定例が終わって店に戻る途中だった。燦燦と太陽が注ぐ大道に、見るはずのないだらけ男の姿を見つけてびっくりする。
 子供の喧嘩ではないから、例の一件があった後も何度か顔は合わせていた。だが、まさかこんな昼間から人出の多い街のど真ん中で会うとは思わなかった。
 流れに沿っていればじきすれ違う。花屋は逃げることもないと思って歩いて行った。
 その時、リップがだらしない前髪の中で両目を開き、刺すほどの注意を込めた眼差しで瞬間、花屋を牽制した。
 ――驚きを隠して、彼の周囲を窺う。確かにリップは単独ではない。右後ろに見知らぬ若い男の子を一人、ヒヨコを連れるように連れている。
 彼に注意しろということか? そんな悪意のある存在には見えないが……。
 戸惑っている間にも距離は刻々と縮まって行く。リップはもう何食わぬ顔をしている。青年はぼんやりした顔のままついて歩いている。周囲は人の海。そこから彼が示そうとしたものを見つけ出すことは花屋には出来なかった。
「あら、リップさん、こんにちは」
「ああ、どうも」
 腹の中に係累がいるとは思えない挨拶をして二人はすれ違った。花屋は再び人と人の間に入って行くし、背中に感じるリップの気配もすぐ乱される。
 五分ほども歩いた後、ようやく花屋は露店の側で足を止め、自分が歩いてきた道を振り向いた。
 無論、人が川の水のように行き交う大道にはっきりした手がかりなど残されていない。リップの姿も、彼の連れの姿も、もうどこかへ紛れてしまっている。
 しかし、あの緊張を思い返すと花屋の表情は硬くなった。何か起きているのだろうか。
 別段気がかりだというわけではない。だが、何かあるのに自分だけが知らないのは性に合わなくてすっきりしない。
「――と、いうわけなんだけど」
 花屋は店に帰る順路を変えて、薬草屋に現れた。
「何か知らない?」
 私はお茶を出し終えると、その手を腰に当てて、鼻声で笑うしかなかった。
「知らない」




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