コントラコスモス -30-
ContraCosmos


 あの夜、やって来たマヒトは私にブラネスタイドで起きた出来事を色々と話して行った。
 公開解剖実習で高い評価を得たこと。同じ畑の学生達と、打ち解けて付き合えたこと。ものすごく意見の合う友人が何人も出来たこと。
 確かに自分には学問僧としての生き方の方が合っているのかもしれん、と彼は言った。ボブリンスキ公女アンジェリナが思慮深い雇い主であるとは言えないが、古都クレバナには自由闊達の気質があり大図書館も擁している。
 派閥と金と小知恵が幅を利かす聖庁よりも、自分に合っているのかもしれない。
 だから、悩んでいる。
 アンジェリナにも言ったけれど、私は「好きにしろよ」と彼に言った。
 当人がやりたいようにやる以上に、最良の選択など無いだろう。マヒトは自らを知る一人前の大人である。その手綱を握るなんてごめんだ。
 私は自分自身すら解放できずに、自由を求めて苦悶している。この上狭い工房の中に、他人まで閉じ込めて一体何が生まれるだろう。



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