コントラコスモス -31-
ContraCosmos


 それは、通常ならごく単純で難しくも無い任務でした。王都の近郊に盗賊のねぐらが見つかったと言うんです。内務部から討伐の依頼があることも普通でした。だから我々は何も疑わず出かけました。
 ……先に単純な任務だったと言ったでしょう。それ故その作戦行動には新兵も参加しました。こういう時新兵を前線に出し、多量の旧兵でバックアップをして経験を積ませるわけです。
 忘れもしません。宿営地と言われた洞窟の側で、部隊は二つに分けられました。一斑が新兵交じりの先発隊。もう一斑は後発隊ですが、旧兵ばかりでほとんど見ているだけの予定でした。
 先発隊の指揮には、イ中尉が任命されました。理性的で物静かな人で、バルト先輩の親友でした。
 僕はもう興奮の虜でした。後発隊に加わったバルト先輩に、「よく見てるからな。落ち着いてがんばれよ」と肩を叩かれたくらいですから、傍から見ていてもよっぽど気負っていたんだと思います。
 とにかく、薄暗い洞窟の中へ進んで行く時、ものすごく心臓が動いていたのを覚えています。
 ところが、洞窟は奥で行き止まりになりました。中には誰もいませんでした。それどころか、人が暮らしていたような様子もまるでありません。
 我々は拍子抜けして辺りを探しました。イ中尉の許可で灯りが点され、それぞれが使われていなさそうな古い内部を見回っていたときのことです。
 ……突然、灯りがふっと落ちました。え? と思った瞬間、誰かに後頭を思い切り殴りつけられて、情けないことですが、そのまま失神しました。
 ……それから……、どれくらいだったのか。しかし多分五、六分のことだったと思います。僕は目を覚まして……、なんというか……、信じられないものを……。
 …………。
 ……すみません。その……。
 どうしても、あれを思い出すと……。
 ……ちょっと、待っていただけますか…………。クソ……。
 …………。
 どうして……。







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