コントラコスモス -31-
ContraCosmos






何ヲ、ヤッテルンダ。

吐き出したものは言葉ではない。
魂そのものだった。
 もう少し早く来れば助かったかも知れなかったのに、どこをほっつき歩いてました?
 信じることが出来なくて何度もイとショーンの顔を往復した。悪い夢だと思いたかった。
 ショーンはひどく楽しそうだった。若い顔を紅潮させ、額に汗し、自らを見失うほど酔っていた。あれほど渇望していた「力」を、手に入れたのだから。
 人が人を動かす「力」。人が人を殺す「力」。
こいつは殺せ、こいつは生かしてやってもいい。
 そうやって決めることが出来、他人から恐れられる男に、
一目置かれる男に、彼は。
なりたかった。



僕は優しい男なんですよ?
彼に選ばせて上げたんです。右手か。
――ボレアか。



 それを聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。まるでブツンと縄でも切れたみたいに、普通の格好で立っていることが出来なくなった。
 痛かった。
何もかもが痛かった。
息をするだけで肺に針が立たるようで、その痛みを逃がそうと、悶えながら俺は、
「―――――!!!!」
血を吐き散らすように、気違いじみた金切り声を上げた。









 ――気づいたときには、その場にいた十三人全員を切り伏せていた。
 殺したのは、ショーンを含めて新兵ばかり三人。ひどい殺り方だった。頭蓋骨が滅茶苦茶になって潰れた昆虫みたいだった。
 転がる体の中でボレアが真っ青になって震えていた。
 当然だろう。部隊の人間同士が殺し合う場面を目にして、痛めつけられない兵士はいない。
 彼の驚愕し固まった顔を見たとき、やっと我に返ったような気がする。
 ―――ああ。俺は。
 自分よりも若い、自分よりも下位の、自らの部下を殺してしまった。怒りに任せて、弁明の機会を与えることも無く。
 たった十八の子供を三人も、この手で叩き殺した。
 殺したくなかったのに。
 殺したくなかったのに。
 この手で。
 ……憎んでなどいなかったのに。
 それどころじゃない。
 世界にこれ以上の居場所などないと、舞い上がるほど仲間達を愛していたのに。
 驚いた。
 俺は、こんな人間だったのか。





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