コントラコスモス -31-
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「ショーンと、その仲間達がいた……」 現実には、そこで言葉が途切れて舌が渇いた。言えなかった。あの茫然自失から、三年も経つのに。 十分ほどもそのまま流れた頃、マヒトはようやく動いて、その右手を、リップの右肩に置いた。 とん、と体が揺れる。彼の掌が異様に熱い様な気がして、リップは思わず目の下に線を引いた。 マヒトは何も気づかない様子で、さらに三度、ゆっくりと肩を叩いた。 振動で前髪が揺れる。一緒に世界も揺れる。やがて手が止まった。 「みんな、信じて待っている」 マヒトはゆっくりと言った。それは聖職者としての声ではなく、ただ、彼を知る友人としてのそれだった。 「お前の苦しんでいるのを知っていて、それぞれに」 「…………」 「大丈夫か?」 沈黙の中で、瞼を絞ったリップの鼓膜を、次の瞬間、甲高い声が蹴り飛ばした。 「マヒト! こんなところにいたのね、いらっしゃい! お部屋でお茶にするわよ!」 長い時間をかけて、彼は振り向いた。二人の視線が向かった先に、祭壇の前で両手を腰に当てる少女の姿がある。側にはいつもの侍従が無表情のまま付き従っていた。 「……私は今、信徒の方とお話をしている最中なんですが……」 躊躇いには一段と姦しい叱責が飛んできた。 「他の人に代わってもらいなさい!! その人は話しさえ聞いてもらえれば誰でもいいんでしょう! 私のお茶にはあなたが必要なの!!」 ドームに殷々とこだまして消える。忍耐が切れたらしく、それきりぷいと身を翻してアンジェリナはさっさと歩き出した。侍従がマヒト達を一瞥し、その後に続く。 「……」 僅かに眉をひそめた神父の手を、肩から剥がして押しやりながらリップが言った。 「いいよ。行ってやれ。俺はもう充分だ」 「……」 しばらく彼の顔を見た後、肯いて公女の消えた中扉へ向かう。無人の聖堂内部に急ぐ足音が響いて消えた。 |