コントラコスモス -34-
ContraCosmos


「逮捕されただと?!」
 参務次官コーノスは深夜、執務室に直接報告に来た部下に向かい、珍しく大声で反問した。旅装束を着込んだ男も緊張した面持ちで、何かを飲み下すかのように苦しい相槌を打つ。
「確かです。今ごろ外務院にもこの知らせが届いている頃かと。
 ヤブロ大司教は領地内を移動中、北ヴァンタス軍により馬車を包囲され、拘束されました。ブリスクが張り付いていますが、恐らく現在もヨークヴィルの牢獄に拘留されているものと思われます。
 鳩も考えられましたが、今回ばかりは直接伺った方がよろしいかと思われまして、許可無く任を離れました。お許しください」
 律儀な部下にコーノスは手を振った。
 正しい判断だ。言うことは何もない。書簡なら誤報を疑っただろう。大司教が自分の領内で白昼堂々と逮捕されたなどと。
「――分かった。ではブリスクはそのまま。お前は直ちにカステルヴィッツに入り、トネリと合流して調査を。何故今この時期にキサイアスが動いたのか、その理由を一刻も早くつかまねばならん」
「了解いたしました」
「外務と会わないようにくれぐれも注意を」
「心得ております」
 大きな帽子を目深にかぶり、一礼すると部下は出て行った。扉の開閉に応じて机の上の灯りが大きく揺れる。
「…………」
 長い間、コーノスは机に狭く両手をついた姿勢のまま固まっていた。大声を出した喉も今は静まり、額を流れるものもなかったが、予兆は体の中で銀河のように渦をまき、心拍の強さでその胸を連打していた。
 彼の肩の背後、窓の四角い枠の中で、対面に存在する外務官僚達の部屋が一つ、また一つと、慌てて明るくなって行く。







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