コントラコスモス -35-
ContraCosmos






『万有引力とは字面どおり全てに存在し全てを網羅する力である。宇宙に行けば引力から逃れられると考えるのは間違えている。
 宇宙の天体の運行も全てそれぞれの星の持つ引力同士の拮抗によって位置付けられている。
 従って諸兄がもし何らかの方法で地球の引力を引き剥がし、宇宙へ飛び出し得たとしても、すぐにその周囲を回転させられる力の帯に足を止められるだろう。ちょうど月と同じように(或いはもっと下等で、月の周囲を回る衛星にされてしまうかもしれない)。
 今一度神のご加護があって地球の影響から脱し得たとしよう。今度こそ諸兄は惑星の海を気ままに飛び回る自由を得たのであろうか?
 そうではない。あなたはもっと別の、感じることも出来ないほど巨大ななにものかに向かって落下を始めただけなのだ。
 この宇宙に力を知らぬ場所は存在しない。
月は地球に、地球は太陽に、太陽は銀河に、銀河は銀河を呼び、全ては想像だに出来ぬ巨大な力の影響下にある。』



『私はこれを考えるとき、まるで人の一生を見るようだと思うのである……。星々が必ず巨大な力によって場を定められているように、我々もまた生まれてから死ぬまでの間、様々な力によって軌道を変形させられ、或いは飛び、或いは落ちる。
 我々に真の意味での自由など存在しないのである。』


小冊子「引力論」より





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