コントラコスモス -35-
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二日後の朝、口元に人を食った笑いを浮かべ、眠たげにだらしない雰囲気をまとわせてリップがやって来た。 こいつは同類なのですぐに分かった。マヒトから例の顛末を聞いたらしい。 「文句でもあるのか?」 「ううん。べーつにー」 言いながらも鋭い水色の目で私を見る。 「ただマヒト氏、最近ツイてないんだよねえ。 まあクレバナ行きを蹴ったのは本人の意思だけど、こないだの市議会のゴタゴタでまた面倒背負い込んでね。坊さんのリンチを止めたら逆恨みされたんだってさ。 そこに来てコレだから、ちっとかわいそうかなーと思ってさ」 「…………」 「今日はここに来るの休むって。まーそりゃそうか? 知らないけどちゃんとした失恋なんて初めてなんじゃない? でも聖庁に居てもあいつ孤立気味だからなあ。気は晴れないだろうねえ。ま、神さんに懺悔でもするのか、勤労奉仕でもするのか知らないけど、どちらにしても辛いだろうなーと思ってさ」 「……下らんおしゃべりをする気なら、お前も帰れ」 「――なんだって?」 急に、リップの声に背骨が通った。 「聞こえないなあ。もう一度言ってよ」 挑戦的な眼差しに応えて私のそれも厳しくなる。 「帰れ」 「……」 笑みは消え、深刻な睨み合いがあった。リップは友人を振った女に恨みを抱くほど子供ではないだろう。寧ろその顔には私の打ち解けなさを責めている影があった。 「……俺は、陰謀は嫌いだよ、ミノス」 最後にそれだけ言って屋根裏に戻っていく。 やっと店の中に誰もいなくなって、私は安堵のため息を吐いた。 そしてその日も気楽に店を開き、原料を用意し、ちらほらある客を適当にあしらい、芝居のように型通り、平穏無事に過ごした。 -了-
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