コントラコスモス -36-
ContraCosmos




 三月最後の二週間は、私たちはまるで夫婦のように過ごした。少なくとも精神的な共謀者だった。
 私は呼ばれなくとも二日に一度は閉店後聖庁へ入り、コーノスの執務室で大抵夜明けまで過ごした。特段用事がない時には書類の整理を手伝ったり彼の飲み物を作ったりしていたから、私がそこにいる必要は実際あまりなかったと思う。
 だが、家族を故地バルビディオの実家へ戻し、休むことなく必死で情報を収集しているコーノスをただ見ているのは嫌だった。彼も私がやってくることに文句は言わなかった。
 夜は日毎に柔らかくなり、気温はぐんぐん上がっていった。事態は同じ速度で煮詰まり、不穏な動きを見せながらある分岐へと進んでいた。
 近衛兵は市議会議場を閉鎖したままだった。俗議員達は随所で内務院のやり方に抗議していた。北ヴァンタスはヤブロ大司教を放さず、聖庁内部でも市街でも強硬派と穏健派が互いを攻撃しあって衝突も起きていた。
 不穏な雰囲気の中でじきに破門宣告が出されるとの噂が囁かれ、依然林檎は姿を見せず、花屋は気まずそうで、リップは実に不満げであり、マヒトは音もなく沈んでいた。
 それでも春は来るのだった。
 四月の第一金曜日はこの街の守護聖人、聖テオドラの昇天日である。人々は冷夏に接する年のように、奇妙な雰囲気を感じながらも暦に従ってその準備を始めていた。
 どうも嫌な感じだな。だが時が経てば終わることさ。去年と同じように、今年も最後は平和に過ぎるさ。
 彼らはそう思っていたのだろう。出来ることなら我々もそう信じていたかった。
「教皇がようやく応じた」
 ある夜、コーノスが低い声で呟いた。
「明日会ってくる」






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