コントラコスモス -37-
ContraCosmos







 毒は右手に笏を握る王者が空いた左手に持つ鞭である。無闇にそれを恃めば暗愚の王と罵られ、遂には玉座を追われるであろう。しかしながら、一度としてそれを振るわねば馬はすなわち主を侮り、轍の回ることはかなわぬ。
 力大なる毒物師に会した時は、王は全力をもってこれを保ち、自らの左手におさまるよう策を尽くすべきである。けれどももしそれがかなわぬ時には殺すべきである。敵の手に落ちることを防ぐためである。
 毒物の知行は血統相続とはいえ、高名なる師の子孫が遍く有能とは限らない。無才なる毒物師は殺すべきである。また一度裏切った者は殺すべきである。口数の多い者は殺すべきである。気の狂った者は殺すべきである。引退を望む者は殺すべきである。盲いた者、老いた者は殺すべきである。他に危険と感じることのあらば即座に殺すべきである。
 毒物師を殺した折には、その遺骸を必ず信頼のおけるものに確認させねばならない。手や足を見たとて安堵してはならない。望ましいのは頭部、胸部、脊椎などである。

(バナテオシス「帝王の心得」第五章より)






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