コントラコスモス -39-
ContraCosmos


 飾りそのものであった近衛兵を一瞬で蹴散らした北ヴァンタス国王キサイアスU世は、堂々たる灰色の斑馬(はだらば)にまたがり、遂に聖都コルタに進入した。
 鐘の乱打と争乱に驚いた人々が戸口や窓から、また実際に通りへ出て様子をうかがった時には、既に市街を水平に貫く大道と、南北へ食い違って伸びる主要道路を重装備の騎士達が押さえた後で、街は裸同然であった。
 人々は物々しい軍隊が大聖堂へと進んで行くのを狼狽し、青ざめて見つめた。これは何事なのか。近衛兵たちは一体何をしていたのか。また聖庁は。
 鎧の騎士達が掲げる悪魔の爪のような形の槍が、太陽を見てびかりと光る。その鋭さに比べると人間の肌はいかにも頼りなかった。四半を経ず繰り返されてきた戦争行為の逸話が萎縮した脳に今更蘇る。
 静寂の通りを進む馬上のキサイアスU世を、不安に満ちた眼差しが四方八方から取り巻いた。王は薄い笑みを浮かべている切りで、彼がどのような人間なのか、何を考えているのか、横顔から読み取るのは困難だった。
 と、行く先の道脇に、三人の男達が走り出てくる。何事か喚きながら彼らに向かって両手を振り上げた。
 キサイアスは後ろの部下を振り向いて、
「連中は何を言ってるんだ?」
と尋ねる。騎士はにこりともせず、聖庁の専制から我等を解放する民主の王万歳と申しております、と答えた。
「はっ」
 王の笑みに侮蔑の冷たさが加わる。
「それは俺達はいつだって幾らか愚かではあるが……、せめて敵味方の弁別くらい、果たせていたいものだな」
「御意」
 勿論男達にそのやり取りは届かなかった。彼等は王が通り過ぎた後も、後続に向かって猿のように飛び跳ねながら、両手を振り回して合図を送っていた。
 やがてキサイアスは聖庁の巨大な門前で馬を下りた。先んじた騎士達は生きた彫刻のように周囲に居並び、一糸乱れぬ敬礼を以って主が中へ入るのを見送る。






<< 目次へ >> 次へ