コントラコスモス -39-
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その部屋では抵抗するものがあったらしく、有様が乱れていた。振り回した兵士の剣が椅子に置いてあったクッションを割り、床には血痕と一緒に水鳥の羽根が雪のように散乱していた。 「陛下。先の官僚を捕縛しました。ご覧になりますか?」 背中からの問いに王は振り向きもせず反問する。 「何で?」 「……失礼致しました。始めます」 「うん」 入れ替わりに騎士の一人が先立って、キサイアスの元へ数名の僧侶を連れてくる。先ほどとは別の枢機卿ばかり、三名だ。彼等は努めて平静な顔をしながら、聖人の昇天が描かれた古い絵を手に持って眺めていたキサイアスに告げた。 「教皇猊下がお目通りになります」 「ほう? これは光栄だ。この世に猊下自ら足を運んで頂いた果報者は娼婦と俺の他にはいまい」 と、彼は額縁を脇に置く。それを部下が運んでいった。 裳裾で水鳥の羽根を蹴立てながら、教皇ステファヌスはやって来た。冠はかぶらず聖帽のみだったが、衣服は精一杯の威厳を求めて祭儀用のものだ。胸元には黄金の十字が重たげに揺れていた。 教皇は枢機卿たちの堂々巡りの議論に愛想を尽かし、自ら加えられた雪辱に片っ端から論難を浴びせるべく、意気込んで来たのに相異なかった。 キサイアスは夜会で人に会ったかのような小馬鹿にした態度でそれに応じた。目の前に教皇がいるというのに、膝一つ折ろうとしなかった。 「どうも猊下。お荷物の整理はお済みですかな?」 教皇は塵を払いのけるように一喝した。 「黙れ!! 私に話し掛けてはならぬ、キサイアス! 貴公は破門された身である。既に神の恵みを受けた我が子ではないし、神の理より逸れた外道、人間ですらないのだ。言葉を話してはならぬ!!」 キサイアスは笑うのを止めると、勢いに圧されたかのように確かに顎を引き、黙った。それを目にした枢機卿たちの頬に赤みが差し、顔が僅かに明るくなる。 激怒した教皇ステファヌスは拳を振るい、さらに言を畳み掛けた。 涜神なり! 涜神なり! 一体聖なる家に対するこの侮辱は何であるか。俗なる立場にありながらこのような大それた真似を為すとは言語道断である。 一切の北ヴァンタス人を今すぐ聖都から撤退させよ。且つ全ての損害を償い、心から悔い改め、即座に王の地位と権限を―― 枢機卿らと教皇は、偶然にもほぼ同時に、キサイアスが黙って聞いた振りはしているものの、その目は宙を泳いで全然別のところを見ていることに気がついた。 それは彼の周りにいる騎士たちも同様で、皆、不敬にも演説する教皇のもっと左。部屋の大きな窓の方へまっすぐ注意を向けている。 「何か。貴公は何を――」 教皇は気分を害し、振り向いた。 そしてそれを見た。 |