コントラコスモス -39-
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風が吹いた。 窓から入り込んできたそれは床を滑って白い羽根を巻き上げた。 風花のように羽根が散る中で、絶句した教皇の見開かれた目が、そこに立つ一人の男の姿を、今までと違った様に捉えた。口は開き、息は止まっている。 「い、一体、何の真似だ?!! あれは何をしているのか?!!」 上擦った枢機卿の声が部屋の壁をまさぐる。その背後では別の悲鳴が容赦なく落下していく。 「答えよ、北ヴァンタス公!!」 「私は畜生ではなかったのですかな」 白い歯を見せて、キサイアスは笑った。だがその後にはこともなげな表情を浮かべたのみで、説明などしなかった。 何の解説が必要だろう。明瞭なことではないか。今、現実に目の前で、行われていることではないか。 「貴様は……」 暗然と沈み込んだ部屋の中で誰かの声がうめいた。それが教皇であることに気づくのに数秒が必要だった。 「貴様は――……」 その先が続くことはなかった。 キサイアスは芝居じみて両手を広げる。 それはまるで、やっと望む認識にまで辿り着いた学徒に悦ぶ、教師の仕草だった。 「そうです。やっとお分かりになったのですね。 私は黒死病(ペスト)。私は梅毒。私は蝗(いなご)。 すなわち――」 "神の鞭である。"
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