コントラコスモス -39-
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そのことを一瞬にして悟らされたのは、鐘楼に集められた官僚達だった。騎士は情けも猶予もなく片端から彼らを投げ棄てた。抵抗するものは鼻を殴られ蹴りだされた。 犬を殺す手際だった。 そして周囲は武器に囲まれ、彼らは丸腰だった。 「――あなたには世話になりました」 「こちらこそ、ありがとうございました」 小さな囁きが残された人々の間で交わされる。その間にも僅かな揉み合いの音と、堪えきれぬ悲鳴が次々に搾り出される。 残された官僚達は、今や背筋を伸ばし、最後の意地を振り絞って崩れそうな自らに堪えていた。 一人の文官が放り出される間際にコーノスの下へ走ってきて手を握った。それを見送った彼の背中に、別の誰かがぐしゃ、と潰れるようにもたれかかる。 かえりみると、それは外務の年若い書記官、バラシンであった。彼は顔面蒼白で今にも失神しそうだ。 「卿……。色々と……、ご迷惑をおかけしました」 「君もか……」 同情に眉根を寄せる。娘達と同世代である彼がここで死なねばならぬのは、いかにも不憫だった。 「私のほうこそ、君をこんな目に遭わせている」 「いえ、違うのです。……恐らくもっと、私はもっと……、あなたに迷惑をかけたのです。赦してください。どうぞ、赦してください……」 「……大丈夫かね。しっかり」 言葉が終わらぬうちにバラシンは口元を押さえ、吐いた。そして崩れ落ち、立ち上がれなくなった。全身がガタガタと震えていた。 介抱しようとしたコーノスの肩を、騎士の両手が掴んだ。窓際まで引きずっていくとバランスを崩した彼の襟と腰とを捕らえ、品物のように放り投げる。 それは一瞬緩やかな曲線を描いて後に、頭から地表に激突した。 -了-
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