コントラコスモス -40-
ContraCosmos


 ――――。
 しまった!! と思う間に血の気が引いていた。
 あれを人間の文法で受け取ってはならなかった。あれは「見せしめ」だ。受け取ったら踏まれる。
両膝から力が抜けて、二度と立てなくなってしまう。
 他者の不幸。物語の一部。歴史の必然。或いは夢。
そんなレンズを透かして見なければならなかった。迂闊な私は裸眼で二体を受け取った。
 ――なんてことを……!
感情は思考よりも早い。言葉は後追いだ。
 それは毒を食らうのに似ている。
先に心臓を打つのは衝撃。それから呻き。
つまり言葉になったときにはもう、全ては手遅れなのだ。
 私はやっとのことで自分を引き剥がし、闇路へ逃れた。人々は魅入られたまま、今また悲鳴を上げる。見るほどに精神を蝕まれるというのに。恐怖は増大していくのに。
 路地を走った。体の痛みより先に、頭の方が麻痺していた。ものが考えられない。
 人間がゴミのように落ちる。というこの不条理で不可解なビジョンを受け入れられず、魂がのたうった。
 呪われろ、残虐の王め……!!
 必死で底を探るうちに、ようやく跳ね返る感情が現われた。
 なんということをするのだ……!!
 そして涙が出てきた。私は渇いた人間のように夢中でロープを手繰り、立ち昇ってくる熱い震えにすがりついた。
 突き当りの闇の中で、両腕を握り締めて涙を流し、
――私は息を永らえた。
辛くも死なずに済んだ。
 一撃を食らいはしたが、まだ走れる。錯綜する道を未だに逃げ続けた。
 街は一層静かになった。
鐘は相変わらず鳴かない(鐘楼は虐殺の場になった)。
 人々ももう騒がない。
恐怖し、萎縮し、自らの立場を思い知って、次に兵士がすることを受け入れるだけだ。彼らは「殺された」のだった。
 私は思考を止めて走り続けた。あれを考えることは気弱と死に繋がる。ただどこにいても目に入る聖堂が今度は仇になった。
 もはやそれを見ることも出来ない。私は主を失した衛星となり、一心に時が過ぎることだけを信じて、力を振り絞った。






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