コントラコスモス -40-
ContraCosmos



 リップは街中を探し回った挙句、結局はその店の前で花屋を見つけ出した。彼女は彼女で、いなくなったミノスを探して一所に留まっていなかったのだ。
 リップは彼女を店内に連れ戻し、地下の貯蔵部屋に入って決して出てくるなと言った。当然花屋は納得しなかった。
「どうしたの、何があったの? この血……。あなた泣いて……?! 何故?! ミノスさんが見つからないの! 聖庁で何かあったの?! さっきの鐘は何?! 遠くて何も見えないのよ。
 どうして私だけ隠れるの?! あなたはどうするの! みんな無事なの?! ねえ?! ミノスさん、マヒトさん……大丈夫なの?! 答えて――もう嫌よ!!」
 最後には絶叫になった。
「私だけが何も知らずに、壁の向こうで守られてるなんて嫌! こんなのなら子供なんて要らない!! こんなの嫌、こんなの嫌よ……!!」
 リップは泣く彼女を扉の向こうにしまい、店中の窓の鎧戸を下ろして施錠し、表へ出た。そして通りにいる人々や、広場に集まっている連中に恐ろしい形相で怒鳴りつけたのだ。
「命が惜しければ今すぐ甕に水を張り、家に入ってありとあらゆる鍵を下ろせ! 家財を横倒しにして扉を塞げ! そしてどんな音が聞こえても絶対に通りへ出て来るな!
 守りたい者がある奴は武器を持て! ――助けは来ない!」
 唖然とする人々に向かってリップは繰り返した。
「助けは来ない!!」






 同日、望むほとんど全てのものを手にして、北ヴァンタスの王キサイアスU世は笑みながら聖庁を引き上げた。十一台の荷馬車には富が満載され、且つ嫌味なほど飾り付けられた馬車には生きた宝石である教皇が押し込められていた。
 騎兵の半分がそれを警護し、王と共に先んじて街を去った。そして残った半分は遂にその本性を現し、守備の絶えたコルタ・ヌォーヴォを狩場に変えた。

-了-




<< 目次へ >> 次へ