コントラコスモス -42-
ContraCosmos |
「……何か?」 「うん?」 「今、何か仰いましたか?」 橙の焚き木の向こうからブリスクが問うた。荷物に寄りかかったリップは何でもないと首を振る。 「独り言」 「……お飲みになりますか?」 落ち着けないと見たのか、細面のサイメイが人差し指ほどの長さの紙の筒を差し出してきた。 「これ何?」 「煙草です。使い晒しの紙で巻いてあるので、端に火をつけていただいて反対側から吸います。貿易船の船乗りが伝えた手軽なやり方ですよ」 「煙草に銃か。世の中どんどんやりきれなくなるな」 「同感です」 とは言えリップは受け取って、たどたどしく焚き火の火を移すと唇へ持って行った。嗅ぎなれぬ香りと、舌に染み入るような刺激があった。顔をしかめながらも、尚もう一度吸う。 現実の痛みが必要だった。うっかりすると意味も無い思考が堂々巡りをする。 立ち上る紫煙を追って顎を上げると、塗りつぶされた枝の彼方に、まぶしいほど膨大な星の世界があった。 -了-
|