コントラコスモス -43-
ContraCosmos




 何日もの間、私は鳥籠の中で、眠るたびに生臭い、悪い女の夢を見た。
 夢の中で女はやりたいように振舞う。相手が頼むから止めてくれと懇願しても聞く耳もたなかった。
 目覚めれば愕然とした私がそれを憎悪することは知っていたが、……いや、知っていたからこそ、それは愉しんで冷笑し青ざめる私を凝視した。
 女は、(気持ちよさそうな顔をしながら、)私が今少し素直になれば、いつでも兵士に語りかけて王に「応」と伝わる。
 そうすればこれらは全て本当になるのにと笑うのだ。
 ――逆らっても無駄だ。
 こうやって力に頼り、彼の自由を封じ込め、心を縛り、永遠に自分のものにしたいと願っている私は、あなたなのだ。
私は消えぬ。決して消えぬ。
 寝ないように努力をしても、二日が限度だった。
結局私は、夢を見ないことは不可能だと悟った。
 人間は人生の半分近く寝ている。そして夢は血の中から湧いて出る。重要なのは目覚めることだ。
 だが、どうしたら目覚めることが出来るのか、どうしたらこの残虐で甘い女の夢を思い切ることが出来るのか、見当もつかなかった……。
『毒に携わる者は毒と死で思考の風車を回す。その戒め無き場所では、毒師ならぬ毒屋は唯自らに翻弄され自ら滅ぶ。』
 カナスは何もかも知っていたかのようだ。
 正に半端者である私は、身一つの鳥籠の中でその拷問に死にかけていた。残った理性は兵士が部屋の中へやってきた時、話し掛けることも近寄ることもしないよう、自戒のためだけに振り絞った。
 だが限界が近かった。
五日を過ぎればもはや私を唆すのは欲ではなく、返事さえすればこの出口の無い葛藤を終了できるという思いだった。
 私はもう半ば私のものでない体で壁にもたれ、うつうつと再び夢に落ちる自分に自ら毒されながら、為す術もなく、眩暈のする168時間を過ごした。




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