コントラコスモス -43-
ContraCosmos


 その頃、黒い髪の毛を振り乱したカイウスは、四の死体に囲まれ、血なまぐさい夜の空気を吸っていた。
 胸に堪えるのは他人の死臭ばかりではない。彼自身、血と食い物を吐いたばかりだった。
 用済みと見た王は、この信用ならない狂犬を黙らせるために早々、毒団子を食わしたのである。
「畜生……! 畜生ぉ……!」
 血刀を下げ、カイウスはよろよろと殺戮の場から逃れた。毒は、内務の同僚の手によって食事に盛られ、失敗に備えて他三名がその場に同席していた。
 カイウスは毒盃をあおぎながら、呪いと血を散らしその全員を殺したのだ。最後の一人は、体中を血で染めた彼のことを見て、気違いと謗った。若い男だった。カイウスは顔を刻んだ。
「黙れ、黙れ……! 徒党を組むしか能のない貴様らに……!!」
 赤く染まった歯を食いしばって悪態を吐く。街の暗部で男はただ独り、魂を引き裂く痛みに耐えた。
「おこがましい……! 俺は今までずっと独りで……!!」
 たった独りでこの長くのたうつ人生を生き抜いてきたのだ。数に油断して結局死ぬるような若造に何事を言われる筋合いもない。
 ただ一度、自分の持ち物だと自負した少女にも逃げられた。今更どんな理屈が彼を説得できるだろう。
 掌、腕、肩、足、全てがぬるぬると汚れていた。彼が触るとその箇所が血で穢れるのだった。
「……死んでたまるか……!! まだだ……、まだだ……!! 俺は、あの女に……!!」
 あたかも傷そのもののように痛みと血を吹き出しながら、カイウスは王都のよろめく夜道に姿を消した。


-了-






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