コントラコスモス -44-
ContraCosmos


 王キサイアスは毒物師チヒロを幽閉している一画へ進んでいた。中途で、閉門が完了したとの報を受けた。その後、先んじた騎士の一人が戻って来て、カイウスが負傷して倒れていたこと、そして『客間』に近づいた騎士が見知らぬ男に攻撃されたことを告げた。
「見張り二名も倒されている模様です!」
「……銃を持て。何人たりとも逃がすことは赦さん」
 肺腑をかき回すような低音だった。キサイアスの怒りの表現だ。命令を受けた騎士たちは、固い表情で掛けて行った。
 やがて、進む王の足元に、床に転がったまま起き上がろうともしない憐れな負け犬の、ボロボロの姿が現われる。
 目はぼんやりとしているが、開いた口元では何かごそごそと呟いているようである。
「何と言っている?」
 振り向いた王の問に、騎士の一人が答えた。
「『どうして裏切った』と申しております」
「…………」
 無音の中で、キサイアスはゆっくりと顔を前に戻し、軽蔑にも遥か遠く、底抜けに冴えて冷たい瞳でそれを見下ろした。
「……貴様ら愚者は、身の程を知らぬ……。自らに与えられた資質を生かすことを知らぬ……。自らを認め、他者を認める術を持たず、ただただ全てを浪費し、腐らし、年を経るごとに病み盲となる……。
 俺はお前のような愚者に興味は無い。相手を殺すことしか出来ぬ愚者の愛にも興味は無い。
 要は、お前などに用は無いのだ。消えてしまえ」
 言い捨て、王は再び歩き出した。随行の騎士から一人が歩み出ると、剣を抜いてカイウスを刺した。






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