scene 3






飲んだことのない酒だった。
ジンベースで、ワインなどよりずっと酒精が強く、寝不足のせいでくるくる回った。
ジダンは飲んですぐLDと別れたが、去り際に言われた言葉が、アルコールと一緒に全身を巡っていた。




ねえジダン
犠牲が必要だとは思いませんか
人が
気持ちよく生きていくためには
いけにえが必要なのです




だれもかれもが円満に生きて
八方丸く収まるなどと
芝居としてですら 有り得ないではありませんか




世界に犠牲は必然だし
現に払われ続けているのです
世界で最も豊かな国々が
世界で最も貧しい国に対し
どんなことを行っているかご存知でしょう




兵士は落命するかもしれない戦いなど望んでいない
望むのは武器による力の獲得と強姦です
だからあちこちで 多分この時も
女子供は殺されまくっているではありませんか




ねえジダン
人が不完全である以上
犠牲は必然なのです
弱いもの 不運なものは殺されます
不変の道理なのです




でも犠牲にされる方になるのは厭でしょう?
だったら殴られて我慢することはない
あの男を殴り返せばよかったのです
殴られたなら殺してやればよかったのです




そして今 あなたが苦しいなら
あなたの周りにいるものたちを利用して
楽になればいいのです
周りのものの弱さを享受すべきなのです
それがもののさだめです




…君の家にいるヨシップ・ラシッチ君にしたって
あなたの気晴らしに役に立たないとは限りませんよ






 顔が赤くなるのが分かった。欲望を突かれる言葉だった。
 それにしてもLDは、さっきの男をどうしたのだろう。何度聞いても笑ってばかりだったが。
 彼のように振舞えば、この世で馬鹿にされることもなく、見くびられることも騙されることもなく、悠然と笑いながら、生きていけるのだろうか。






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