scene 1





 濃い時間はあっという間に過ぎていった。慢性の寝不足の中でスケジュールをこなすうち、とうとうゲネプロ(公開リハーサル)の日を迎えた。
 今日は、報道、舞台関係者などを云わば模擬客として劇場に招待し、開場、客入れから公演、客出しまで本番と同じ手順でこなしてみて、実際に支障が出ないかどうかチェックする試運転の日である。
 クリスティナはロビーに常駐して受付スタッフを管理していた。規模の小さな公演だからそんなに多量の招待客があるわけではないが、業務初日ということで皆、幾分緊張している。
 ジダンは客入れ前に彼女らに声をかけ、さらに客席で音響、照明スタッフのブースを回った。それから舞台袖で舞台監督、演出部スタッフ、役者達の一人一人と顔を合わせておく。
「緊張してるか?」
 自分とそっくりの猫背でぶらぶら体を揺らしているJR役のヨシプに聞いてみると、「べつに」とのことで手応えもない。
「この人、初舞台のくせ朝から私より全然落ち着いてるんだよね」
 アキがどうゆうこと? という表情で呟くのにヨシプが答える。
「だって特に失敗するような気もしないし…」
 目をパチパチさせながらも、みんなそれで黙った。ジダンも頷きながら袖から退散する。
 ぼちぼち人の入り始めた客席を回り、愛想を振りまいた。何人かは記事を書いてくれるかもしれないライターだ。例のスキャンダルの後なので、時にそれらしいことを皮肉っぽく匂わされたりもしたが、にっこり笑って聞こえなかった振りをした。
 一回り終えて、再び受付へ舞い戻る。机の前にいるクリスティナの傍に立ち「大体来た?」と尋ねると、彼女はリストを見ながら、
「…そうね、大体こんなものじゃない」
彼が知りたいこともそっと教えてくれた。
「ムッシュウ・フェイは、まだね」
 ジダンとクリスティナは、彼にも招待券を送っていたのだ。
「そうか――――。実を言うと怖くもあるんだがな。内容が内容だけに、今度こそ絶交されるかもしれない」
 さすがのクリスティナも苦笑を浮かべる。
「否めないわね」







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