L'inutile
おおきな犬







人気のない道を一時間も歩き回って、ようやく、両足がアパルトマンに向かう気になってくれた。


 階段を昇って、玄関から居間へ入ると、思いがけず灯りがついていた。
 同居人がビール片手に立っている。
「おかえり」


 ぽかんとする。帰宅はまだ三日も先のはずだ。
「…なんで?」
「向こうの予定が変わってな。随分遅い帰宅だな?」
「道に迷った」
「…どんだけここに住んでんだ」
「一週間も留守にするのがいけないんだ…」
「ああ?」



 ヨシプはジダンの前に立って、自分のマフラーの両端を握った。
「あんたがいないと、道に迷う」




(EOF)




<< 前 トビラ 次 >>