L'inutile
おかしな日








 ただでさえ冷えた空気が、身を切るほど堅く、耐えがたくなる夕刻。
 彼はマチルドに会った。
偶然だが、なんのことはない、彼女がいつも利用する沿線の地区をうろついていたのだ。それにしても珍しいから、マチルドはその幸運に笑みを浮かべる。
 が。
「ちょ、ちょっと、ヨシプ……。悪いけどどこの浮浪者かと思われるわよ。髪の毛ひどいわ……」
 寝癖に北風が絡まって大変な有様になっている。彼女は思わず手でさっさと直してやった。
「こんなところで何してたの? 私は田舎から遊びに来た友達と今、別れたとこだけど」
「…………」
 彼はさっきまでルーブル美術館の入り口がある広い地下街にいて、世界中から集まってきた観光客に混じってなんとなくベンチに座っていたのだと答えた。
 昼間中?
昼間中。
「なによ、それ……? 相変わらずおかしな人ねえ? ていうか寒いでしょ? 晩御飯の予定は?」
 晩どころか昼飯も食べていない。
 呆れた挙句に、マチルドは彼を家に誘った。ヨシプは簡単に承諾した。思慮した気配もなかった。














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