L'inutile
おかしな日







「……どうもタイミングが悪いわね、私」
 しまいにマチルドは笑い出した。ヨシプを家に上げて、カプチーノを出して、自分も紅茶を飲み終えた後だ。
「珍しくガードが下がってると思えば……」
 今度うちに来たなら、絶対逃しはしないと意気込んでこの機会を待っていたのに。
 彼女は見覚えのあるアロマポットの横に茶器を置いて、自嘲の笑みを浮かべつつ長い足を組む。
「とてもだめね、今日は……。なんだか、いつにも増して近寄りがたい雰囲気よ、あなた。それになんだかうまく言えないけど、修道士みたいなオーラ」
「……」
 それはヨシプはいつだってさほど愛想のいいキャラクターではないが、ここまでじゃない。
「教会にでも行ったの? 今日はまるで聖人でも、あなたの傍に寄り添っているみたいよ」




 ヨシプは答えなかったが、カップを持ったまま、心の中で静かに呟いていた。
 それは弟だ。
十六年前の今日。クロアチアの原野で撃たれて死んだ、僕の弟だ。




(了)











<< 前 トビラ 次 >>