深夜ドラマ「幸福になる千通りの方法」のエピソード71-74に登場した悪徳不動産屋は、ひどい男だった。まったく救いようもないひどい男だった。
彼は俗悪で、愚かしく、滑稽だった。
最後は下水処理場で大爆発死という、途方もなくきちゃない、荒唐無稽な死に方をするが、しまいにはそれがその人生の行き着く先として妥当だと思えるほどの大罪人だった。
もちろん彼は一事件に登場するきりの使い捨てキャラであったが、その治しようのない悪さと悪夢のような存在の惨めさはお気楽なドラマの中から完全に浮き上がり、視聴者に強烈な印象を残した。
感覚の鋭い者たちはそこに鏡を見た。
ヨシプとかいう変な名の、見慣れぬ役者が名優なんだかどうかは判断できない。
ただ彼は全然思想のない、鏡のような存在であって、そこに映っているのは結局、テレビを見ている自分達の顔なのだ。
「いやー、何回みてもヒドいねえ、このドラマは」
居間で、ソファに座るジダンはポテトをかじりながらくつくつ笑う。彼も舞台の仕事がつつがなく終了して、やっと一息ついたところだ。
件のドラマはジダン家でも録画され、話のタネにと、ことあるごとに再生された。
「途中から、もーいい。筋のことなんかどうでもいい。はやく死んでくれ。頼むからはやく死んでくれ、って気になるもんな」
「ホント……」
と、アキも渋い顔して相槌を打つ。
「…………」
もちろんヨシプはぼけっとした顔のまま両膝を抱えているだけだ。彼にとって、自分の出ているビデオを見ることほど不毛なことはない。
コンナモン録ッタッテ面白クモ何トモネエヤ。
ワインを取りに行ったクリスティナが戻ってきて、彼らの背後に立った。
「いやー実はねえ、放映以来、他のテレビからもちょろちょろ出演依頼があるんだけど……」
「あ、そーなんだ。すごいじゃない」
「どれもみんなマニアックなプロデューサの噛んでるやつばっかでね……」
「あはは、なるほど」
「そのうえ全部が、ものすっごい悪役なのよね……」
「うわあ……」
皆が苦笑する中、悪徳不動産業者の乗った車は、今日も元気に汚水槽の中へと飛び込んでいく。
(了)