15.5470のいる風景






はじめに


 周知の通り5470(ごーよんななまる)とは、公的目的のために製造された公僕用人型ロボットの一種である。政府機関や病院施設などでお馴染みの、我々にとって身近なタイプといえる。
 人型ロボットの呼称は、一般に初期人格設定プロトコルの名前に依り、同種も世界人型ロボット工科規約上でのプロトコル認定ナンバーが#5470のためこう呼ばれる。
 このプロトコルを作成、個体を製造したのは大手メーカー、テネシー工学(現TTM)であり、当初は二二三〇年度地方選挙における汚職と不正の撲滅のために統一政府に導入された。やがてその成果が優れたものであった為、様々なバージョンが研究され、公的機関の様々な分野で使用されるようになったのである。
(中略)
 二二三二年に五年もの準備期間を経て制定された「エア・シティ建造法」は、「統治代表者及び実務に当たるサービス員が人造人間である場合、全員が世界人型ロボット工科規約5470-3*aより高レベルでなければならない。」と定めている。
 この基準の獲得により5470はその後三年の間に公僕ロボットの分野で91%のシェアを占めるに至った。もっとも、同法が成立するまでには企業同士の熾烈な覇権争いがあったのであり、テネシー工学は法律案策定の際の派手な政治運動が後に露見し首脳陣が辞任、翌年に社名を変更している。
 二三〇〇年現在、同法の基準によりエア・シティで統治業務に当たっているのは、一般職で調整率3nc程度、高級官僚は3hf、統治代表者は3pk以上である。
 ちなみに上位職ほど外的造形にも気を遣って製作される。これは外面の偉容が統治に際し有効であるためである。
(中略)
 …5470は、従来の機種に比べて柔軟性が非常に高く、性格に富み学習能力に長けており、その上一切の汚職を知らない有能な公務員である。みなさんにも、彼らと接してその自然さに驚いた経験がおありだろう。また丁寧で効率のいいことに感心なさったこともあるかもしれない。
 そのような反響を受け、各部門で5470への人員置換が進むに従い、統一政府内部の構造、また社会の仕組みそのものにも様々な変化が起きており、現在の行政サービスはもはや5470抜きで考えることは出来ない。
 いわば5470は、現代社会を営む為に作り出された新生物なのであり、同機に対する社会の依存率は今も増加を続けている。
(中略)
 ちなみに、5470が初めて芸術作品のテーマとして取り上げられたのは二二九〇年である。南部大陸出身の感情的な民族派シンガー、トリスト・クレメンティは中央で人々の福祉に従事する5470について、以下のように同情を込め、やや批判的な調子で歌っている。



彼は俺と同じ様に考える
彼は俺と同じ様に右手を上げる
それでも彼は扱われない
人を殺したクソガキや賄賂を贈った
企業家のようには
憐れな男よ 名前しか持たない男よ
知っているか 俺の故郷には
お前と同じ様な人がたくさんいる
人間扱いされない
ただ労役する動物たちが



君は俺に社会の向上を説く
君は俺に生産への愛を説明する
なのに君は参加できない
遠くにぼんやり光る火を神の
徴とあがめて働いている
憐れな男よ 魂を持たない男よ
知っているか 俺の故郷には
お前と同じ様な人がたくさんいて
毎日捧げ尽くした体をさすり
冷たい粥を食っているんだ


(「Like Us」 *1)





R.サトー「5470のいる風景」
ZL出版より抜粋









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