53.理由
サミュエル・クワンの話3









 …最初から冷静に受け入れられたなんて思わないで下さい。 私は激昂していました。
 クロード・カーターとシャオユェにしてやられたことにも。彼がそのことを隠していたことにも。
 トードーをなんであれ裁判の当事者にしてしまえば、彼の身柄を引き続き閉じ込めておくことが出来ますし、法廷以外の場で事故について発言することが法的に制限されます。たとえ無理な訴訟で裁判に負けようが、その間に選挙が通り過ぎれば任務は完遂なのです。
 同時にシャオユェ達は素晴らしくショッキングな煙幕をたくことによって有権者の興味をそちらに反らし、ニンブスの事故を政治劇では無くしたのです。B級メディアの三面記事にしたのです。ただの猟奇的な事件として片付けてしまったのです。やり口が卑怯でした。
 同時に、私はトードーにも怒っていました。どうして今まで黙っていたのか。何週間も一緒にいて、彼の性格に馴染み始めていただけに、私は裏切られたような思いがしました。
「どうして言わなかったんです?!」
 『ホテル』の部屋で、私は本当に彼を怒鳴りつけました。あれが事前に知らされていれば、こんなにまんまと出し抜かれ、これ程までに惨憺たる結果になることはなかった。少なくとも、対策のとり様があったはずなのです。
 トードーは「ごめんなさい」と言いました。それでも私が彼を責め続けると、最後にもうやり場が無い、というような寂しい笑い方をして、私に対して言ったのです。
「…あなたには軽蔑されたくなかったんです…」
ヌクテ・ロイスダールに似ている、私には。



 私はその日法務庁から帰る道すがら、泣きました。
どうしてかは分かりません。きっと収まりがつかなかったのでしょう。
 神様の同情を望みました。
こんなのありかよ。何とかしてくれよと思いました。
しかしそうやって泣きながらも、
自分の感情には何一つかえりみられるほどの価値など無い。
トードーの声が何度も何度も頭の中でこだましていました。











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